CANDY

愛はどんな味でしょうか?

きみとコインランドリーとぼく①

 

 

梅雨時期であることと仕事が夜中まで終わらなかったことが重なった今日、初めて近所のコインランドリーに向かった。どうせこんな時間に誰も居ないだろうと完全に気を抜いていたわたしはちょっと鼻歌交じりでそのドアを開いた。

 

今思えばこれが運命のドアだったのかもしれない。

 

静かな空間の中で、一台だけドラム式の洗濯機が回っているそのすぐ隣に黒髪で白いシャツを着て眼鏡をかけたその人が座っていた。色白のその手にある本には「太宰治」の文字、わたしは何故かその人から目を離すことが出来なかった。息が詰まるような感覚、どのくらいの時間が経ったのだろう…その人が私の視線に気付いた。

 

 

 

「……ん…こんばんは…」

 

そう言いながらその人が静かに少しだけ笑いかけてきたと同時に止まっていたわたしの時間が動き出した。

 

「…あっ、あ、ごめんなさい……」

 

急に恥ずかしくなったわたしは急いでその人から一番離れた洗濯機に洗濯物を詰め込んで急いでスタートボタンを押した。

 

またこの空間が静寂に戻る。時計はもう一時を過ぎている。わたしと、その人しかいない、二台の洗濯物が回るだけの空間。沈黙が苦しくなってきて少しだけその人の方に目をやると同じ様にその人もこちらを見てきた。

 

「っ…」

「…あの…今って、雨降ってます?」

 

こちらを向いたその瞳が黒くて大きくて綺麗で、わたしはまた息が詰まる感覚に襲われた。

 

「あ、いや…いまは降ってないです…」

「そっかぁ…じゃぁこのあと走りに行けるかな~

 

独り言みたいな小さな声でその人は言った。

普段は何をしてる人なんだろうか…

 

「ぼくの家の洗濯機壊れちゃって…ここ探して通い出したんですけどこの時期だから、昼間とかものすごく混んでるじゃないですか」

 

「ああ…はぁ…」

 

すごいよく喋る人だな

 

「だから誰も居なそうな時間に来てるんですけど…今日ここで初めて人に会いました」

 

ふふふっと笑う顔がなんだか柔らかくて自然とわたしの表情も少しだけ緩んだ。

 

「…もしかして……あなたも…

洗濯機が壊れちゃったとかですか?」

 

「えっ…まあ、はい…そんな感じです」

 

─咄嗟にについてしまったこの嘘は─

 

「え~同じですね…ぼく、あと二週間は

コインランドリー生活なんですよ。」

 

───14日間だけの───

 

「二週間……わたしもです…」

 

「じゃあまたお会いするかもしれないですね」 

 

───幸せな嘘になった────

 

これは、名前も知らない二人による深夜のコインランドリーで起きる二週間だけの秘密のはなし。

 

                                           おわり