CANDY

愛はどんな味でしょうか?

きみとコインランドリーとぼく②

 

 

 

 

次の日の夜、わたしはまた洗濯物を抱えてあのコインランドリーのドアの前に立っていた。またあの人が居るかもしれないという淡い期待を胸に。

 


ギギィッ……

 


ドアを開けるとそこには誰もいなかった。

 


「……あ~あ…」


大きな声と一緒に大きな溜息をついてからドスンッと椅子に身体を預けて頬杖を付き、わたしは静かに目を閉じた。

 

 

──「また会うかもしれないですね」──


そんな毎日同じような時間に来るわけないか…と諦めて立ち上がり、わたしは手早く洗濯物を洗濯機に詰め込んだ。うわぁ…眠いなぁ…明日も来れるかなぁ……明日は…会えるかなぁ……そう思った瞬間、ドアの開く音がした。

 


ギギィッ…

 

 

 

「…あっ…」


思わず声が漏れた。ドアを鳴らして入ってきたのが、昨日のあの人だったから。

 


「  …! あ~昨日の~…こんばんは」

 

黒いTシャツに黒いスラックス、透けるようなその色白の肌と黒い服の相性が最高だなあ……なんて気持ち悪いことを考えていたらつい返事が遅れてしまった。


「……あっ、こっこんばんは…!」

「お仕事終わるの、いつもこのくらいの時間なんですか?大変ですね~」

 


そう言いながらその人も洗濯物を洗濯機に詰めていく。


また会えた……という嬉しさとだからなんだという冷静さがごちゃ混ぜになって不細工な顔になってないだろうか…それだけが心配だった。

お互いに洗濯機のスタートボタンを押し終えてなんとなく絶妙な距離感を保ち、それぞれ椅子に座った。その人はすかさずリュックから昨日と同じ本を取り出して栞をテーブルに置いた。本を読むのを邪魔してはいけないと、わたしは一番端の椅子にその人に背を向けるように座りなおした。洗濯機が周り終わるまでの間、この時間を堪能しよう。そう思った矢先に後ろから声がした。

 


「あの~……」

 

「ぇっ?へっ?」


思わず間抜けな声が出てしまう。

振り返るとその人は続けて言った。

 


「なにか飲みません?ぼく奢りますから」


なんだろう……この人…なんで昨日会ったばかりの知らない人に飲み物を奢ろうとしてくるんだろう…思わず変な声になってしまう…

 


「へっ!?いやっそんな…大丈夫です…!」


「せっかく出来たコインランドリー仲間だし…お近付きの印に…ぼくも丁度飲み物飲みたいし。ついでだと思って、ほら…ね。」


そう言ってその人は百円玉をこちらに差し出してきた。


コインランドリー仲間ってなんだろう…

腕を全開にこちらに伸ばしてウーーッとなっているその姿がなんだかとても可愛らしく見えて、わたしは急いで立ち上がってその百円玉を掌で受け取った。

 

「ありがとう…ございます…」

「いいえ」


その人はまた柔らかく笑った。

指が長くて綺麗だなぁ…目が大きいなぁ…何歳なんだろう…髪型のせいか眼鏡のせいか、割と若く見えるけど…

 

 

ガタンッと自販機から缶コーヒーが出てくる。

小さくその人に向かって「いただきます」と言いながら缶を開けてそれを飲んだ。

ウーン…深夜のコーヒーは染みるなぁ…

 

 

「明日も雨ですってね」


わたしと同じコーヒーを飲みながらその人は言った。雨でも晴れでもわたしは明日もここに来るんだろうな…

 

「そうなんですね…」


「あ~…明日も来るのかぁ…めんどくせぇなぁ…」


天井を見上げて身体を伸ばしながら発せられたその少しだけガラの悪い言葉になんだかキュンとした。


すると直ぐにこちらに向き直って 

 

 

「あ…なんかごめんなさい…ぼく喋り過ぎですよね…煩いですよね……ちょっと黙ります」


「!? そんなことないです!もっとお話したいです!」

 

心の声が漏れた上に予想以上の大きな声が出てしまって自分でも驚いたけれど、その人は大きな目をさらに大きくしてわたしより驚いていた。


「あっ……いや…その…すいません…」


咄嗟に立ち上がってしまった自分に動揺しながらヨロヨロと席に着き、またコーヒーを飲んだ。何故だろう、さっきより苦く感じる。ああ…何言ってるんだ自分……やってしまった…沈黙が怖い……怖すぎる…


缶コーヒーを握る手に力を込めて猛省していると思いがけない言葉が飛んできた。

 

 

「……しましょう。」

「……え?」

 

え?

 

「お話、しましょう。これ、もう少しで読み終わるので。ちょっと待っててください。」

 

 

笑ってるのか真顔なのか、よく分からない表情でその人は言った。一体なんなんだろうこのひと…

 

わたしは何故か苦くなったコーヒーを少しづつ飲みながら洗濯機のガラスに映る本を飲むその人を見つめながら時間が過ぎるのを静かに待った───

 

 

 

                                   おわり

 

 

 

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