CANDY

愛はどんな味でしょうか?

きみとコインランドリーとぼく③

 

 

 


あれから五日が経った日の深夜二時、わたしは仕事の都合やらなんやらでこの五日間コインランドリーに来ていなかった。貴重な二週間の内の五日間も無駄にしてしまった……少し落ち込みながらドアを押し開けた。

 


誰もいない、静かな空間

 


「………はぁ…」

 


洗濯機が直っちゃったのかな…

今日は雨だから来ないのかな…

それとも別の誰かの家に…別の…別の…何?

 

 

ギギィッ!バタンッ!ガタン!


ものすごい音がして振り返ると途中で雨に降られたのだろうか、全身びしょ濡れのその人が立っていた。

 

 


「っえ!?ど、どうして!?」

 

大人なのになんでそんなにびちょ濡れに!?

 

「ハァハァ…いやぁ…家から出る時には全然降ってなくて…油断してた…こんなに降ってくるとは…あぁ…冷たい…やだ…」

 


Tシャツが透けるくらいしっかり雨に濡れてしまっているその人はコインランドリーの冷房で凍えてしまいそうだった


どうしよう…

 
「…!あ、あのこれ、小さいハンカチですけど…髪だけでも拭いてください…風邪引いちゃうといけないから…」


わたしは白くて小さなハンカチを差し出した。するとその人は大きな目を数回ぱちぱちさせてからゆっくりとハンカチを受け取ってくれた。

 
「ありがとうございます…」


…とは言っても服はびしょ濡れだ。

 
「んー…この匂い嫌だなぁ…これも脱いで脱水しちゃおうかなぁ…」


少しの沈黙の先で目が合う

 
「あ、いや、しないですよ、さすがに。セクハラになっちゃう…」

 
「わ、わたしが…わたしが洗濯物入れて一旦家に帰ったらそれ出来ますよね!うん、よし、帰ります!」

 

急いで洗濯機のスタートボタンを押して急いでその人の横を通って外に出ようとしたそのとき

 

「あっ、ちょ、」


パシッ

 
その人に右腕を掴まれた

 
「…………えっ…………」

 


「ダメです。」 


今までで一番近くで顔を合わせた

水滴で濡れた眼鏡のレンズが、濡れた前髪から落ちる水滴が、頬を伝うその水滴が、やけに綺麗に見えて、わたしは息を飲んだ。そのレンズの向こうにある瞳がやけに真っ黒で真っ直ぐで目も逸らせない…

 

「外、土砂降りだから。」

 

今までにない強めの口調に対してもなんだか心臓が跳ねるような感覚がした 


「………ッ……」

 

 
綺麗さと、突然腕を掴まれた驚きとで、しばらく固まっていたら

 


「……あっ、わ!ごめんなさい!これ、俺、セクハラ…」

 


パッと手を離される

 

「ごめんなさい!あの、その、ほら!今外出て俺みたいに濡れちゃったら…風邪引いちゃうかもっ…しれないし…あの、その、おれ…」

 
その必死さがなんだか面白くてつい笑ってしまった。

 
「ふふふっ…分かりました、大丈夫です、分かりました。帰りません、ここに居ます。だから…風邪引かないでくださいね…」

 


腕を掴んできたその手がやけに冷たかったのは雨のせいなのか、それとも………

 

  

それからしばらくして私達はいつものように各々席に座り、洗濯機が回り終わるその時を待っていた。

 
「いやぁ…この数日間、やっぱり誰とも会わなくて。本も全部読んじゃったし一人でじっとしてるのも何だからひたすら走ってたらまぁ~洗濯物が増えて増えて」

 


今日はまた一段とよく喋るな…どうしたんだろうか…というか毎日そんなに走れるのか…アスリートなのかな…


「ドア開けても待ってても誰も来なくて、それを望んで来てたはずなのに…やっぱり、あなたがいると、嬉しい。」

 

急に無邪気な笑顔を向けられてわたしは咄嗟に下を向いてしまった。──あなたがいると嬉しい───……は……?これは…どういう…こと…?心臓がドキドキしてきた……

  

「…あ!?!?これもセクハラですね!?!やばいな…まずいですよねこれ!?ほんとに、ごめんなさい俺っ!あの…!」

 
以前セクハラでも訴えられた事でもあるのかな…焦ると「俺」とか言葉が崩れるのがくせなのかなんなのか…とにかくさっき言われた言葉が頭の中でぐるぐるぐるぐるしていて上手く頭が働かない……けど…なんだか笑えてきた…

 


「うふふ…へへっ…ふふふっ」

 

 「??????????????」

 

急に笑い出すわたしを不思議そうに見つめてくるその人にわたしは素直にこう言った。

 


「私も、今日、会えてよかったです」

 

 


その言葉に意味なんかなくても、

あなたに会えたらそれだけでわたしは幸せ。

 

               おわり

 

 

 

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